Sweet Brissie life

ブリスベンでのサトウキビ博士研究生活の甘くない備忘録

大事なことこそ地味だったりするが、地味なことにも感動を生む可能性がある

モチベキープのためのポエム寄りポスト。

 

 

研究はデータ取集が佳境。

いま動いてるフィールド実験がこのプロジェクトでは最後だし、その中でもこの数ヶ月で得られるデータがメインの成果になる。機材費も人件費もかなり注ぎ込まれているからチームとしても何か得なくては、と少し張り詰めてる。

 

とはいえ、実作業の方は単調作業の繰り返し。フィールドに行けば機材のメンテナンスとサンプリング。大学ではオフィスで装置のモニタリングとラボでサンプルの処理。特にサンプルを分析するための前処理はやたら時間を取られる割に目新しいことは皆無。この前後1ヶ月は本当に半分以上が単調作業なんじゃないか。

 

それにこういう細かい作業の指示が指導教官からあれこれ降ってくるわけで、自分の主体性がどんどん感じられなくなってくる。ただそうやって手間のかかる作業ってのが結局価値あるデータに直結してるわけで、地味に見えるけど大事なことなんだよなってのもわかる。とは言っても、おれ何のためにこれやってんだろうって気になるよね。

 

研究自体の見通しがつくのは良いけど、その先に何があるんだってことこそ常に意識すべきところで。着地地点のざっくり予想できる研究、そこまで実社会の現状にインパクトを与えないだろう成果、そのために大事なことって大事なのか?ささやかなアカデミックな業績と道筋の整えられた学位に3年費やすことの意味はなんなのだろう?

 

ただ順当に研究をこなすだけでは、待っているのは予算獲得と論文の果てしない競争だろう。博士学生の不遇だとか、研究者のキャリアパスが不十分とかのニュースの絶えない日本よりマシかもしれないけど、農業分野の研究者ポストは世界的に縮小傾向だろうよ。研究は面白いが、その伝統的なキャリアというレッドオーシャンを泳ぎ切る自信はあまりないしそこまで惹かれない。

 

アカデミアでの競争で生き残るしか研究できず、研究を活かせないのか?

 

研究のトピックによってはやはり伝統的な研究機関や組織の設備・資金が必要になるかもしれない。やっぱり論文やポジションで勝ち残りたいなら仕方ないだろう。でもおれの興味を持ってる農業や開発って、実社会で営まれてるものだし。論文の引用数増えてもまぁ承認欲求は満たされるだろうけど実体ないし。

 

なにも今やってる研究やそのスタイルを全否定するものじゃなくて、むしろもっと研究の実施と発信にもっと色んな可能性があるんじゃないのかってこと。フィールド実験とモデリングとシミュレーション...は王道だけど、それだけか?それに直接の成果だけじゃなくて、その過程で得られる知識やスキルや経験にも価値はあるはず。知識や技能の発揮の仕方、コンテンツとしての発信の仕方もどんどん増えてるんだし。

 

だったら、旧来の業績やキャリアパス固執する必要はないような?

 

まぁそれでも、自分で開拓するのだって容易じゃないし多分もっと茨の道。研究のテーマや専門分野を出発点にしながらも、そこだけに全てを注ぐのではなく、その先に目指す方向性やそこに人を巻き込む手段も練り上げていかなくちゃ。もちろんこれまでの奨学金申請やポストへの応募でも幾度となく書いてきたことだけど、A4数枚のCVやCover letterに留まるような程度ではない。それを発信していくのも体力いるし、自己満足だけじゃリアクションもらえない。

 

今日もとある学会のサイドイベントのようなものに参加してきたけど、サトウキビ生産と温暖化効果ガスの研究してるよって言うだけでは全然引きつけられなかった。そりゃそうだよな。多少ペテンに感じられるくらい、ビッグマウスに思われるくらい、語れなくちゃ。証拠や正当性は下支えに必要だけど、真っ向から振りかざしても多勢は巻き込みにくい。

 

どんな世界が見たい?その一端を、誰にどうやって提供できる?

 

これらに応えていくうちに、だんだんと支えてくれる人が増え、実現に近づくんじゃないか。それはきっと、論文やポジション争いだけじゃない。むしろ逆で、こうした高い視座で広く活動することがアカデミアでも武器になる、そんな気がする。そうした視点が、日々の地味な活動にも意味をもたらしてくれる。

 

...ふと思い当たったこと。プロの体操選手の華麗な技だって何度も見せられたら飽きもする。ただのバク転でも、それが1ヶ月一緒に練習してきた仲間の初めての成功だったら感動する。結果で評価されるのは当然、でも共感を生むのは過程や文脈なんじゃないかな。

 

自分の研究や活動に関心を持ってもらえる、共感してくれるように方向性を付けてやりたい。そしてその物語を届けられるようになりたいよね。

 

土とスポンジをひたすらいじる日々を華々しく語れたら3年間常に最高潮だわ。