Sweet Brissie life

ブリスベンでのサトウキビ博士研究生活の甘くない備忘録

最初のフィールド実験を終えて

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夕日を背にするパパイヤ畑


先週もフィールドワークのためにTownsvilleへ出張。そこでの一枚...惚れ惚れする夕日だったなぁ。

こういう風景が好きというのが農業に取り組むモチベーションになってたりする。

 

さて、ここらで自分のサトウキビ畑でのフィールドワークに関して一度まとめておこうと思う(それなのにトップ写真がパパイヤなのは気にしない)。どんなことを何のためにやっているの?というとこから、実際にやってみてどんな様子なのか、チームでの働き方なんかも含めて振り返っておきたい。

 

 

・なんでサトウキビ?この実験の何が大事なの?

そもそもなんでサトウキビに注目しているかというと、自分の住むBrisbaneを含むQueensland州は世界的にも指折りのサトウキビの一大産地で、沿岸部は一面のサトウキビ畑。大規模農業で、当然ながら肥料(特に窒素肥料)もたっぷり投入して収穫量を確保するわけです。

 

この肥料がきっちりサトウキビに使われれば何も問題ないけど、実際には雨や灌漑の水とともに流れて最終的に海を汚染してサンゴ礁グレートバリアリーフとかね)に悪影響を及ぼしていたり、地面から温暖化効果ガス(主にN2O)となって排出されたりと、主に環境面で負の効果もあったりする。

 

肥料をあげまくっても収穫量には限界あるし、無駄になる肥料が多いほど環境負荷も大きくなる。そのために、肥料をあげる量によって、

(1).地面からのN2O(温暖化効果ガスとして、CO2とCH4も)の排出量がどう変わるか?

(2).与えた肥料がどのくらいサトウキビに使われ、どこに失われていくか?

(3).土の中でN2Oが生み出される過程(主に脱窒反応)無害なN2も出てくるが、両者のバランスがどう変わるか?

そんなことを調べている。

 

これらが解明されれば、環境リスクを小さく、効率良くサトウキビを育てる(よくある、持続可能な農業)ための適切な肥料の量を提案できるよね、というのが大義

 

....ちなみに、実験で分かったことを更にモデリング&シミュレーションで拡張しよう、ってのがPhD研究のメイン(になるはず、やや危ぶまれてる)だけど、今回はフィールド実験の振り返りなので割愛。

 

 

・で、具体的にどんな実験やってるの?

肥料の量を変えたら諸々どうなる?ってのが根本なので、肥料なし、その地域の推奨量、推奨の±数十%の処理区を設けてサトウキビを育てて、いろいろ測定する。

 

そのうえで、地面からのガスを採取する装置を設置だったり(1)、与えた肥料がどこにいくか調べるために特別な肥料を一部使ったり(2)、脱窒反応を詳しく調べるためにもっと特別な肥料を与えたエリアを設けたり(3)。

 

地面から温暖化効果ガス出てるらしい...どうやって測ります?古典的には、地面に箱を被せて注射器みたいなので中の気体を吸い取る。これを少し時間空けてやって、取った気体の成分を分析したら、増えたり減ったりが分かるじゃん!...でもこれを頻繁にやるのって大変だよね、自分の家の庭じゃないんだし(飛行機2時間+車1時間半)、数もあって時間かかるし。そんなあなたに、自分がいま所属してるチームは、このガスを自動で採取・分析する装置を開発してきました(装置と使い方トレーニングセットで輸出もしてる)!だからこの装置を設置すればあとは最低限のメンテナンスだけで温暖化効果ガスを測ってくれますYO!

 

あと、特別な肥料ってのは放射性同位体(15N)の濃度を高めたものなんだけど、細かいことはともかく高純度なものは1gで1万円以上する(金の2倍くらい!)からそんなホイホイ試せない。だからそこに資金投入できれば、あんま得られてないデータが取れるわけね。

 

 

・ほう...そしてその中で君の役割はなんなの?

全部。ってのが本来(?)だけど、先日までの実験は自分が到着する前の2018年から行われていたので、実験のセットアップは幸か不幸かやってくれていました。加えて、装置で自動的にはやってくれないN2の測定も、実験開始数か月の間に人を雇ってやってくれていました。ありがたやー。

 

自分がやったのは、シーズン途中での装置のメンテナンスと土壌のサンプル。最低限の、って書いたけど今シーズンやってみてそれも結構な負担になりうるというのが判明した(チームはおそらく分かっていた)。分析器が湿気にとても弱いので水分を排除する仕組みを備えている一方で雨や灌漑の時にはマニュアルで装置を一旦停止しないといけない、という分かりやすいトラブルの元がある。そしてチームの中で装置を使いまわしているため既に古くなっていてパーツ交換が度々必要になる。機械整備の作業が多くて、自分はメカニックの修行にオーストラリア来たのかな?って錯覚できなくもない。

 

そんな四苦八苦を経て、先月に最後の土と植物のサンプリング、実験装置の撤収作業を行ったというところ。

 

 

・へーお疲れさん、うまくいった?

必要なデータを取る、という目的はほとんど達成できていたように思う。その点では、実験のデザインやセットアップがすでに与えられていたとはいえ、実験管理はよくこなせたと考えている。特に最後のサンプリングでは、それなりに自分で調べて手法やワークフローを事前準備して臨み、効率よく実施できたのでは、と自負してる。

 

と、書いたもののまだ分析できてないサンプルが多すぎて(最後のサンプリングほぼすべてだし)、(2)や(3)の目的のための実験としてきちんと実施できていたのかはまだ不明である。良くも悪くも、と書いたように自分が来る前に一番大事な時期は過ぎてしまっていたので何とも言えない。

 

 

・(筆者)お待ちかね、愚痴をぶちまけよう

とりあえず、実験デザインに対して自分が来る前のものに対してやや残念に思うところもある。まぁチームにサトウキビの経験がなかったし文句言える立場でもないけれど。ただ、PhD研究全体のディスカッションではデザインに対してのインプットを求められていて、次回のために提案したりもしたものの結局プロジェクトの都合で場所もデザインも決まってしまった。しかも農家や共同実験グループの都合で既に望ましいデザインではなく、プロジェクトのプロポーザルのための形式的な中身の薄い実験になるという。そうやって自分のオリジナリティを足せる余地が測定部分にしかないというのも非常に残念なところ。ただいずれにせよ足すだけの準備もあまり間に合っていなかったのも事実。

 

ここがPhD研究として致命的なところで、結局焼き増しでしかないんだよなぁという感が拭えない。モデリングの部分で何とか工夫できれば良いけれど...というこの発想自体がモデリング経験の浅いこのチームに従った現状そのものなんだな。何をどうやってモデリングするか掘り下げて考えず、フィールド実験段階で考慮しない(特に自分の指導教官が....)のはどうなのって。唯一PhD研究全体の文脈に沿いつつ学術的重要性の高いのは(3)部分のモデリングだけれど、次の実験でデータが取れるのか、前回の分析結果がまともなものになるのか(未だに取り組まれてないのも残念過ぎる、、、)不安がつきない。

 

自分の力不足か、既存プロジェクトに参加する形でのPhD宿命か、、、ただ”実験を遂行する”のではなく、真に一歩踏み込んだ”研究をする”ということがいかに難しいか、痛感している。

 

フィールド実験で愚痴というか難しいなと感じた部分は、自分がコントロールするのか、取りまとめて任せるのかというところ、、、最後のサンプリングの時、自分が計画や事前準備をとりまとめていたのでフィールドでも指揮を執るような形でやっていたけど、コントロールしようとしすぎて摩擦を生んでいたように思う。コロンビアの時にもそうだったけれど、任せることの大切さ。今回は特にこちらのスタッフに科学研究のための実験作業経験があるのだから、もっと彼らが心地よく動けるような取りまとめの仕方をすべきなんだろう。

 

そして最大の愚痴は、PhD学生は安い労働力という扱い。や、そりゃ自分でサンプルの処理とか機材の整備とかやるもんでしょってのもごもっともだけれど。そのためにある程度人を雇っているのに、そっちの手伝いにどんどん割り当てられるのは喜ばしいことではない。はっきり言って単調作業なんてもっとバイト雇って消化しろよって。実験の根幹になる、コストも高い部分の結果が半年以上放置ってあり得ないよ。研究結果を論文にまとめることがあらゆる面で目標になるし、それこそPhD学生に最も労力投入させるべき部分だろうに、単調作業ばかり割り当てるなよ。

 

どんな会社で働いても多かれ少なかれあることだし、そんなもんだよ、と言われてしまえばそれまでだけれど。単調だけど必要なことなのは百も承知だが、ここで評価されても何の価値もない。もっと研究テーマを見つける・洗練すること、検証方法を考案すること、結果を分析・考察すること、そういった部分でチーム内外を認めさせるように、単調作業は避けねばならぬ。

  

愚痴もどんどん極まってくるが、どうにも指導教官と摩擦を積み重ねてきてしまっているからか、信頼関係を築くというよりも若干いがみ合うような形になっている気がする。正直、議論のたびにスッと納得して同意できることがあまりなく、疑ったり反発するようなことが多いからか。それでも、自分一人では何もできないし、摩擦しながらでは効率も悪い。真っ向から論破したくなりやすいけど、あたかも相手にとってもそれが望ましいかのような形で自分の望む方向に最終的に帰着させたいんだ。

 

結局、こういう内部での政治や忖度にイライラさせられてる。ミーティングでは半端に反発して、それでも相手の顔色伺うように気を使って半端な言い方したり。終わってから不満が溢れてきて、それをぶちまけられたわけでもなく、なのに余計な摩擦が残って自分の首を絞めるようになっていることにすごくモヤモヤしている。

 

 

・次回に向けての抱負をどうぞ!

愚痴でグダグダしたけど、そんなこんなでフィールド実験は進んでいき、もうこれから一か月ちょいの間で次のシーズンが始まる。開始から数か月で大事な測定期間は終わってしまう。それらで自分のPhD研究でのフィールド実験も終わりで、すなわち3年間で使えるデータの量と質が決まる。

 

だから、測定部分だけでも何らかのオリジナリティを足すこと、もっと任せること、単調作業を極力避けること!