Sweet Brissie life

ブリスベンでのサトウキビ博士研究生活の甘くない備忘録

研究者ってストーリーテラーだよね

ようやくオーストラリアに来て最初の成果物を書き上げた。とはいっても、学会用の2ページだけの要旨だけど。。。それでもAcceptされれば公開され残るものだし、短いからこそ簡潔に必要な情報をまとめるのには一層考える必要があるもの。だから一つの到達点として研究活動そのものへの考察と共に記録しておこうと思う。

 

今回の執筆で指導教官と校正をしていく過程でも、改めて研究者(の役割の一つ)はストーリーテラーだよねっていうことに至った。

 

これはここ1,2年で恩師や尊敬する人たちから自分がもらってきた言葉たちを色濃く浮かび上がらせる。

 

「Introductionが書くの一番大変で、優れた研究者からの上手い表現はとても勉強になる。」

 

「Introductionは背景やこれまでの研究を適切に踏まえて自らの研究が新規で独自で重要であることを簡潔に示すもの、研究者としての力量が現れる。」

 

「英国圏のアカデミアでは Professorに次ぐポジションは"Reader"と呼ばれ、それだけ大量の文献を読み知識を体系化できることが求められることを示している。」

 

「実験をこなして結果をまとめるだけじゃただの実験者で、研究者ではない。研究の文脈を理解して、その先の一手を打つのが本当の研究。」

 

...浮かび上がらせるとか言いながらぶっちゃけ細かい文言まで覚えてないし今の自分の脚色が大分混じってるんだけど、でもざっくりこんな感じの意味の言葉たちで間違ってないと思う。自分にとってこれらがストーリーテラーという研究者の一つの本質的な要素を表してるようにますます感じられるんだな。

 

Introductionに関するのがぽつぽつ出てるけど、実際このセクションの重みがすごい。自分の研究結果と比較する事例を探すときはResults中心に読み漁るからIntroduction飛ばしがちだけど(そりゃ自分の研究なら背景とかざっくり分かってるもんね)、研究の文脈を把握しようとするとき、すなわち自分の成果を論文なりの成果に落とし込むときはIntroductionの流れをじっくり読むよね。

 

それを自分で書くとなると大変。だって問題の背景から関連する過去の論文を踏まえて、自分の研究が新しくて独自で意義のある事を論理的に示して、想定する読者がこの先も読みたくなるように書かなくちゃいけない、簡潔に。それには膨大な読み込みと、それによって得た知識の体系化、読みやすく伝わるように書く文章力、すべてが求められる。

 

それって正にストーリーテラーじゃない?

 

そして今回は自分たちの持つ実験データを元に、”筋が通るように”要旨を執筆しようと試みたわけだけれど。本当は始めからその筋を捉えた上で、その先に打つべき一手を考案するのがさらに重要な研究者の役割のはず。前者が過去指向のストーリーテラーなら、後者は未来志向のそれかな。

 

なにも指導教官達が計画提案してきた今のプロジェクトが全体として筋の通らないものであるわけでもないし、当然ながら想定した結果だけが得られるわけでもない中で、こうやって個々の成果を出すべく文脈をひねくりだすのはごく普通のこと。それにこうした筋を通す経験や技術があってこそ、次に打つべき一手とその検証方法が見えてくるもので、表裏一体なんだと思ってる。

 

ただ、こういう”筋を通す努力”が求められるというか、実際の仕事の大きな割合を占めてるというのはなんだかもどかしくもある。Publish or Perishていうくらいのアカデミアで、そうでもして論文数稼がないと生き残れないことを思えば仕方ないのだけれど。そしてプロジェクトを策定する、実験計画を1からデザインするってのは今の自分がPhD学生として取り組んでいることとは段違いの研究活動なんだと痛感する。そういうのはPrincipal Investigator(主任研究員?)になってやるものだと言い聞かせることもできるけど、本当に優れた学生ならPhDの段階でもそこまでやって資金獲得して実行してたりするんだろうな、なんて。

 

まぁそんな否定的になる必要もないしなってもしかたない。既に大まかに与えられたストーリーと、実行段階に入ってしまった実験でも、それらをきちんと達成できるというのがPhDの要件なのだから、決して悪い状況ではない(逆にPhDのコモディティ感は否めないけど)し、甘く見てもいけない。2年目は実験をやり切り着実に成果を重ねること。3年目にはその先の一手が見えて、届くポジションまでたどり着くこと。

 

 

...ちなみに更に俯瞰すると、このストーリーテラーの要素って、何も研究者だけにとって大切なものではないよね。それは共感力やらリーダーシップみたいなものとも密接にかかわっていて、例えば起業家なんかにも求められるんじゃないかな。こんなことが実現したい!みんなオラに力を分けてくれ!って。

 

それにまだぼんやりと感じるだけだけど、これって創造性の核じゃない?

 

それをもっと体感できたら、確信が得られたなら、それだけでPhDをやる意義があったと思うだろう。

 

そしてこのブログももっと読みやすく読みがいのあるものになってるはずさ!