Sweet Brissie life

ブリスベンでのサトウキビ博士研究生活の甘くない備忘録

博士課程1年目を終えてちょっと経って

短かったのやら長かったのやら...無事オーストラリアでの博士課程1年目を終えることができた。

 

こちらの大学院では、開始3ヶ月で研究プロポーザルとなるStage 2、そして1年の節目でLiterature reviewをより深めたプロポーザル + progress report的なConfirmarionなるものが課される。今回そのConfirmationの報告書の提出とプレゼンを終え、無事2年目に突入するという運びであった。という節目なので、ここ一年での博士課程を振り返って自己分析・評価してみたいと思う。

 

 

 

# フィールド実験 ★★★☆☆

実験のデザインや実施からデータ収集に至る成果としては合格点ではあるが、チーム内外での協力プレーにやや難ありという印象。

 

1シーズン目は自分がこちらに来たときには既に始まっていたので、実験遂行を引き継ぐ形に。温暖化ガスの測定のためにチームが全自動の測定装置を開発・運用してきているので、最初の大きな課題は今回のプロジェクト担当としてその装置の扱いを覚えること。これがまた研究者というかメカニック的な部分で苦労した。スパナのサイズとかナットの種類とか、そんなパッと出てくるわけないだろう。全自動とはいえ高い気温と湿度の過酷な環境下にずっと晒されているため、度々トラブルが生じ、その修理の中で仕組みを覚えていく感じだった。この辺りは新人らしく頑張って吸収してる、そんな感じだったと思う。

 

暗雲が立ち込めたのは、取れている分のデータを分析する中で問題になってきた、実験デザインの欠陥への対応。ここらで意見が割れるようになり、自分がややしつこく疑問や反論を投げかけることがあったが、どうも指導教官から面倒な扱いを受ける。それが決定的になったのは収穫サンプリングの計画で、ここでも反論していたことに対して”You gotta trust us.”という風に議論を打ち切られるようになり始める。そして実際の現場での収穫サンプリングでも細かいところで主張をするも(のちに記述するが自分にとっては作業量と確実性をそれなりに左右するので必死)、チームの経験や指導教官らの指示に従うことに。この時からチーム内でも頑固なやつという印象を持たれてしまった感があった。

 

2シーズン目の実験デザインの段階では、それなりに指導教官らの要望を汲み取りながらスムーズに計画できたと思うし、現地スタッフに作業を依頼するための準備や、自分の提案した独自の測定項目(NH3測定...ただ、今思えばそこまで頑張る必要なかったかな)の準備も限られた時間の中で良くできた方だと思う。が、しかしここでも更に意見の対立が生じてしまう。これまででも辟易していたので、自分でも荒立てないように気を付けていたつもりだけど、相手も慌ただしさの中で気が立っていたんじゃないかと、振り返ると思う。

 

そんな具合で、チーム内、特に指導教官と摩擦が度々生じてはいたものの、フィールド実験としてやるべきことはこれまでのところ最低限出来ているので、まぁ合格点なんじゃないかなと思う。

 

もともとある程度実験デザインが固まっていたので、自分の決める余地は比較的少なかったのだけれど、もしこれからデザインするならどうしただろうか。2シーズン目では窒素の処理段階を増やしたが差分が変わらず50 kgN/haであった。削減処理区が標準と有意差がないことを示して節約を訴えるのであればまだしも、有意差や反応のカーブを見るためには、もっと差分を大きくレンジも広くした方が良かったはず。0、100、200、300くらいがっつり分けた方が良かっただろうな、まぁ結果見てからの後出しだけれど...実際この2シーズン目の結果をどう調理するかは悩ましくなりそう。そしてよく頑張ったと褒めたいNH3だが、自分の研究の文脈からやや外れてしまうので、やらなくても良かったかなとも思う。これも後述だがあんなに苦労するとは思わなかった。そしてこれこそ後出しで、かつ文脈からも少しそれてしまうことだけれど、窒素肥料の量よりもOCの方が影響が大きいんじゃないかという仮説。C sourceを足した条件との比較とかできれば面白かったかな、まぁこれはやり直したいというよりは今後の検証課題だ(とはいえ装置の運用は手間なのであんまりモチベ高くないけど)。

 

 

# サンプルの処理と分析 ★★★☆☆

で、問題はこれですよ。土壌やら植物体やらNH3やらアホみたいな量のサンプルを処理する羽目になった。あぁ、PhD学生ってこういうサンプル処理みたいな単調作業のために雇われている側面が大きいんだなと痛感するところであったし、それを回避するために反論することで摩擦を生みこれまだ別の痛手となる、悩ましい側面。

 

Mineral N分析のためのKCl処理、15Nの分析のための膨大な土壌と植物体サンプルのGrinding、意外と苦戦したNH3(NH4+)の抽出や、切り株と根の分離作業...アホみたいな量である。はっきり言って数回やって慣れてしまえば学びや発見などほとんどないし、もはや肉体労働に近くて、頼むから知的労働をさせてくれと昨年の9~12月あたりは毎日切に願っていた。さすがに哀れに思ったのか、この調子だと分析結果を出すのにあまりに時間がかかることを懸念したのか、ちょこちょこ助っ人ををアサインしてはくれた。でなければ本当に精神をすり減らしていたであろう。 結果としてはほとんどきちんとしたデータが取れているので、その処理と分析の峠を越えた今では、まぁ無駄ではなかったかな・数か月くらいの経験なら悪くはないかな、と思えるようになった。

 

その当時は1シーズン目からのサンプル処理と2シーズン目の計画・準備の時期が重なって大変だったのだけれど、今回の2シーズン目の収穫時サンプルの処理は集中してスパッと終わらせられることを期待する。そもそもサンプリングがきちんと行えることを祈るばかりだが。

 

 

# データ分析 ★★★★★

さて、ここまでしんどい側面が色濃かったが、データ分析だけは我ながら誇って良いと思う。

 

基本的なデータの下処理(特に多量となるGHGシステムからのデータ)、GHGデータの時系列分析、各種統計分析とグラフ化など。そして自分の仕事の中核をなす作物モデルAPSIMの理解と扱い....修士のころからじわじわ進めていたAPSIMをRスクリプトに組み込むこと、そこからの感度分析やパラメータ最適化、今後特に発展させていきたいSpatial・Regional Analysisの構築。最近はRmarkdownを活用したhtmlファイル化による結果のレポーティングなども。データ取得から論文化まで可能性を広げつつ、かなり速く突き進める武器になっていると思う。

 

PhD学生としては恐らくこれまでの分析スキルだけで十二分だし、チームの中での立ち位置としてもこのままスキルを広げて深めていけば、不可欠な人材となれるかもしれない。様子を見る限りRを高度に扱えるのが1人、作物モデルの扱いはそこそこ程度が数名、衛星データ及びPythonも1,2人、関連としてC#Javaなどのプログラミングが2名ほど。研究に有用な分析・プログラミングにおいては、トップを狙えなくもない気がする。逆にメカニックやフィールドアシスタンス的な面では絶対に太刀打ちできないし目指している方向ではなく、一方でプロジェクトそのものの立案と予算取りはまだポジションとして遠く、研究分野の知見でも限定的にしかまだ勝てない(これは研究者として避けて通れないし自分としても注力したい)。

 

データ分析で揺るぎのない立場を得るには?対外的にも勝負できるスキルセットとは?

各種分析手法の理解と運用:時系列分析、ベイジアン、Machine Learning

ソフトウェアの運用:Rパッケージの開発、Python・TensorFlowの運用

作物モデルの運用:複数モデルの理解、感度分析、パラメータ最適化、シナリオ実装

空間分析:リモセン・衛星データ活用、RかPythonによる空間データ分析

( プログラミング・サービス実装):サーバーサイド(上記分析を実装)、React&React Nativeによるウェブサービス・モバイルアプリ化

 

...聞き覚えのあるワードを並べた感も否めないがこれらを理解・実装した上で、なるべく多くを論文化・サービスとして公開することだろう。フィールド実験を終える今年からの博士課程後半を通じて、これらの学習とアウトプットを存分にやりきりたい。

 

 

# 執筆 ★★★★☆

Confirmationでは、論文化に直結する形で、かつ十分なレビュー量で報告書を書けたと思う。そしてその後の最初のJournal Articleもそこそこのスピード感と論理・主張をもって下書きまでこぎつけたと思う。

 

ただ苦戦したのはResearch Gap、ひたすらにこれをいかにスムーズに明確化するかの戦いだったと思う。背景から徐々に絞り込んで、それがなぜ大事か、どこまで分かっているか、何が欠けているか、これらを明確にして解明すべきものを浮き彫りにしなくてはならない。英語の試験とかで、ライティングでは接続詞を使うようなアドバイスがあるが、少なくとも科学論文に関してはそれらを使わずとも論理構造が明らかな書き方をすべき、というのは納得。

 

結果やディスカッションについて、グラフやテーブルは良いが注目・主張すべき結果に絞って記述しろ、てのも痛感したところ。ディスカッションでは自分の結果を他の研究を使って際立たせるんだ、ただの結果のリピートや、自分のものを関係のないLiterature Reviewを展開しないように気を付けろ、なども。

 

あとは、内容の前に、平易でも間違いのない英語を書けるようにしろ、とのこと。英語の誤りに気を取られると内容が頭に入らない...そりゃそうだな。具体的には、今更ながら冠詞や不定詞、単複の扱いでの指摘も多い。形容詞に頼りすぎずに数字で示すこと。それから文は短めに切っていくこと、関係代名詞とか分詞を多用して長過ぎるのは避けるべき。自分の英語が日本語的なんだなと感じたのは、一文の中でも結論を先に置いて前置きは後回しにしろ(日本語だとこれ自体変だな笑)、という指摘。トピックセンテンスは意識できてきて、まぁ悪くなくなってきたかなというところ。それでもSubheadingを段落毎につけて段落の役割を明示するようにも言われた。それにWhat is the take-home message?てのもよく言われていて、段落最後でも次に繋がる一文の工夫を常に心がける四津陽がある。

 

たくさん指摘されてネガティブに捉えかけてるけど、この辺りは直すべきポイントをはっきりさせてくれただけで、報告書の評価も多分そこそこ高かったはずだし、ポジティブに捉えよう。そして以前にも研究者はストーリーテラーだ、なんて書いていたけれど、やっぱりこの研究の文脈を理解して自分の研究の新規性・重要性を位置付けて目立たせるということは研究者必須(というかきっと本質)の職能だ。そのためにはやりある程度のPublicationを積んでいくことが王道のはず...キャリア的にもプラスなのだから、ガンガンやっていこう。今年こそ誰もが認める成果を出す。

 

# プレゼン ★★★☆☆

単にもっと練習してすらすら言えるようになれ、てのが7割なんだけれど。ちょこちょこ具体的な反省もある。

 

Terminologyにとくに指摘を受けた、あとは完結した文章を話せということ...やはり英語圏だしな、自分の英語力にまだまだ難を感じる。

 

No "we", "and then", "sorry"!...本番でも言っちゃったしその都度気になってしまった。

 

大抵の場合、聴衆の注目は思ってるより簡単に逸れてしまう、話に置いてきぼりにされてしまうと言われたけどその通りだろな。

 

実際にやってみて、やっぱ文字量多いなって感じた。話がうまければ、もっとスライドの文字量は減らせたはずなんだなぁ。それはつまりそれだけスライド見て話しちゃってたということでもあり。一人一人の目を見て注意を引くくらいじゃないと。

 

あとQ&Aはもっと洗練された簡潔な答え方しないとな、というところ。特に学会だったらもっと時間厳しくなるし。

 

それでも、何人かからコンセプトとか説明分かりやすかったと言ってもらえたのは素直に受け取ろう、大事なポイント。結局このConfirmationのプレゼンがこれまでの博士課程で唯一のプレゼンで、もっと機会を自分から掴まなくちゃというところ。

 

 

# チーム・指導教官との働き方 ★★★☆☆

 ここはもう最初のフィールド実験のとこで散々触れたからいいかな、というところなのだけれど。もう少し、内部政治・競争的な部分でも思うところがあったから軽く書き残しておこう。

 

以前に研究チームの一人と、その関連の外部研究者から、自分のデータ分析でやってきたことに興味を持たれ、別プロジェクトの手伝いを打診された。つい最近にも、もっと近い指導教官の一人から同様のことを持ちかけられた。どちらも無給だし、うまくいったら論文に名前載せてやるよ、くらいしか期待できない。それでもそういった打診自体がある程度の評価を意味しているし、ある種恩を売っておくことが実績や信頼関係やチームでの立ち位置の構築につながる。ただ、特に前者の件では自分の指導教官はあまり良い印象を持っていなかった。前者の担当者と自分の指導教官はそれほど良い協力関係にはなさそうだったからか。他にも、自分のチームのトップと、自分が協力を得たいプロジェクトの参画機関の研究者が仲が悪いなど、板ばさみ的な状況がちらほらとある。

 

こういう時、自分は外に手を伸ばしてしまうのだけれど、大抵こういう相手はトラブルがあった時には平気で切り捨ててくるだろう。利害関係的にも、自分の直属の上司たちとの関係をないがしろにすると、どちらも立ち行かなくなりかねない。それほどに自分のチームでの立ち位置はまだ弱いと感じさせられる。データ分析のとこでは楽観的に描いたように実力的な側面ではまだこれから、と言えるのだけれど。けれど残念ながら友好関係的にはやっぱり自分は溶け込めてないように感じる場面が多い。あんまりこの辺りで悩んでいても仕方ないんだろうけれど、もう少し、ソフトスキルも向上できればなぁと思わざるを得ない。

 

# 総括

さて、この記事を書き出していたのは実際一年目を終えたときだったのだけれど、結局伸ばしに伸ばして記事を書き終えるのにプラス 3か月経ってしまった。具体的な内容はよほど専門が近くない限り何言ってるか分からないようなもので、こんな長文誰も読まないんだから、さっさと書き出しちゃえばよかったのにな。

 

ともかく、悩むような側面、なんだかなぁとモヤモヤする場面は度々あるものの、 この一年で研究環境に慣れ、3年間の土台となる実験の実施やデータ採取をよく頑張った!

 

博士課程で取り組むべきことは鮮明になった!成果も今年から徐々に出せるはず!2年目はこの研究プロジェクトのインプットの大部分を達成し、後半から3年目にかけての怒涛のPublicationやサービス構築へ向けて一気に畳みかけていく!

 

そしてもっとブログ記事もちょい出ししていく、と宣言する笑