Sweet Brissie life

ブリスベンでのサトウキビ博士研究生活の甘くない備忘録

Bushfire in Australia - オーストラリアの山火事の実態、今そんなに燃えてるの?

この画像、最近SNSなんかでよく見ますよね。オーストラリアの山火事(Bushfire)の規模を表したもので、被害の大きさは世界的にもニュースになってます。

 

ちなみにBushて単語、普通は”茂み”とかって訳されるものですが、オーストラリア英語だと森とかを意味します。なので山火事をBushfireて呼ぶんですね。他だと多分Wildfireとかが主じゃないでしょうか。さらにちなむとそこまで「山」でもないけど、今回は山火事で進めるよ。

 

さて、今回はそんなオーストラリアの山火事のお話です。

 

タイトルやトップ画で気になって記事を見てくれた人のために出し惜しみなく答えを提示しておくと、あの画像はオーストラリアの写真家のAnthony Hearseyさんが、「去年5月からのNASAの衛星データの累積をさらにちょい誇張して作った3Dイメージ」らしいですよ。

Is this image of Australia on fire really a satellite photo taken by NASA? | En24 News 

www.abc.net.au

 

そりゃこんなに大陸が燃え盛っていたらみんなやべぇって思うよね。ただ、あの画像はちょっと誤解を招くにせよ、実態はそんなに誇張でもなさそうです。自分もオーストラリア現地にいて、当然ながら頻繁にBushfire関連のニュースを聞くので少し調べてまとめてみました。

 

・実際の規模はどのくらい?

・生活への影響は?

・動物、生態系保護の面では?

環境負荷、CO2排出は?

・なんでこんなことに?例年は?

・何をしてる?何ができる? 

 

こんな具合です。深堀してるわけでもなく疑問に思ったことを軽くググった程度のまとめだということは念押ししておきます。

 

 

・実際の規模はどのくらい?

あの画像は誇張だとして、じゃ実際どの程度燃えてるのか。Guardianによると、“The total area burned stands at more than 8.4m hectares as at 6 January.“だそうです。

www.theguardian.com

ちなみに記事を書いてる途中で更新されて、1月8日時点で10.7 million ha...1000万ha超えたみたいです。

1000万ヘクタールってどんなもんよってことで、上記のページのインタラクティブマップで、「燃えた面積の合計を正方形にして選んだ都市に重ね合わせる」という機能でロンドンに当てはめてみると...

f:id:tkd708:20200110224526p:plain

ドーバー海峡またぐ勢い。

 

それからほかの山火事と比較してみると...

山火事で有名なカリフォルニアで特にひどかった2018年の山火事で80万ha弱

2018 California wildfires - Wikipedia

去年話題になったアマゾンの火災で90万haほど

2019 Amazon rainforest wildfires - Wikipedia

両者の10倍以上っすよ、ぱねぇ。

 

ちなみに過去のオーストラリアの山火事の規模と比較しても段違いです。オーストラリア全体での推移が見つからなかったのでNSW州だけですが。

www.theguardian.com

 

 

もうちょっと現実的な山火事の発生状況のマッピングだとこんなのも。

www.theguardian.com

これは昨年11月だけの表示で、政府公式のMyFireWatchなるリアルタイムでのモニタリングサービスなんかを見ても、常に新しい火事が発生してる様子。。。ただこのマップも広域で見ると炎のアイコンが大陸埋め尽くす感じに見えちゃうから気を付けてね。

myfirewatch.landgate.wa.gov.au

 

というわけで、冒頭のSNSで話題の画像ほどの山火事が今まさに生じているわけではないけれど、累計での焼失面積は史上最高クラスのものだし個々の山火事は現在進行形で発生し続けてるんですね。

 

 

・生活への影響は?

 これだけの規模なので、人々の生活への被害も甚大です。先週の時点でも死者23名(1月8日で28名)、行栄不明6名、1500以上の家屋に損害、何千何万もの避難者が出ている模様。

www.theguardian.com

下記記事の画像、昨年見たものですが衝撃的です、、、

www.sbs.com.au

それに、火事に人や家が巻き込まれる直接的被害だけでなく、煙による大気汚染も危険水準をはるかに超えているみたいです。下記記事のトップ画像の曇り具合、、、

www.theguardian.com

 

幸いにも自分の住んでいるブリスベン地域はこれらの被害はほとんどなく平常運転ですが、シドニーにいる友人はここ最近ずっと煙っているとも言っていたし、更に地方の被害はなおさら長期化・復旧困難そうで心配です。。。

 

 

・動物、生態系保護の面では?

オーストラリアといえばカンガルーやコアラなど動物を連想する人も多いでしょう。動物や生態系への被害という面ではどんな数字が出てくるのか...真っ先に挙がるのは、シドニー大学のProf Chris Dickmanによる480 millionという推定...でもNSW州だけだし、焼失面積増え続けてるし、虫やコウモリやカエルといった生き物は含まれてないから、もっとひどいだろうとのこと。

www.bbc.com

www.vox.com

 死んでしまった動物の数もだけど、やっぱり希少な種や彼らの生活圏の損失が大きい、とも。

www.theguardian.com

ちなみにカンガルーの数も調べていたけれど、直近のSouth AustraliaのKangaroo Islandという場所での被害のニュースが出てきました。South Australiaだけでも少なくとも25000匹ものコアラが死んでしまったと推定されている。。。

www.telegraph.co.uk

 

 

さて、ちょっと重くなってきたのでカンガルーつながりで閑話休題

こっちにきて田舎道を運転しているとカンガルーマークの標識がちらほら出てくるんですが、カンガルーとの衝突事故が本当に多いみたいです。

毎年20000ほどの動物との衝突事故が報告されていて、その8割ほどがカンガルーなんだとか...

現地人の友人に聞いても、かすったりぶつかったりという経験がある人は少なくないです。

まぁオーストラリアの人口2500万に対してカンガルーは倍の5000万匹いるらしいし、それがひょこひょこ跳ねてたら事故るよね、、、

www.nationalgeographic.com

ナショナルジオグラフィックのカンガルー特集、良き。 

 

 

 

環境負荷、CO2排出は? 

さて、山火事というと温暖化効果ガス関連の研究をしている身としてはそれによるCO2排出量がどうなているのか気になります。

頑張って調べるか、と思ったらぐぐって最新のが速攻で出てきちゃいました。

”Australia's bushfires since September have emitted about 350 million tonnes of carbon dioxide, equal to two-thirds the country's annual emissions from man-made sources, estimated Pep Canadell, director of the Global Carbon Project, based on data from NASA satellites.”

CSIRO(国の研究機関)のDr Pep Canadellによると、昨年9月からだけで35000万トンのCO2!オーストラリアの人為的な年間排出量の2/3に相当するようです。

www.reuters.com

ただ、こっちのちょい古い方の記事で触れられてるけど、そもそもオーストラリアの山火事からは毎年34000万トンのCO2が排出されてて、これらは国全体で見たときの森林の再生で帳消しになってるっていう想定らしい。ただ今回の山火事は特に規模が大きいから、この期間中の排出量以上に、損失した森林の長期的な影響の方が懸念されてるみたい。

www.theguardian.com

 

そのうち、もっと深入りできたらいいな。そのうち。

 

 

・なんでこんなことに?例年は?

ここ最近で随分と話題になってるけど、山火事自体は去年の春先くらい(南半球だから9-10月とか)で既にぽつぽつ発生してて、周りも毎年こんなもんよ~くらいのテンションだった(気がする)。なんでこんなに大規模なものになってしまったんでしょうか。

 

そもそもの山火事のきっかけは、実は人為的な原因が多い模様。といっても故意なものはほぼなくて、キャンプの火の不始末とか電線の故障とかそういう事故が多いらしい。自然のものでは雷が主な原因だそうで。 そこから拡散していくのに関わる要因としては降雨・風速・大気温・湿度なんかの気象条件に加えて、落ち葉や枯れ木など燃料になるものの豊富さとその水分量、地面の傾斜などといった土地条件もあるんだとか。まぁ、でしょうね。

Bushfire | Geoscience Australia

https://www.csiro.au/en/Research/Environment/Extreme-Events/Bushfire/Bushfire-research

This is how most bushfires in Australia start, and how we know - Science News - ABC News

Explainer: What Really Causes Australian Bushfires? | Lifehacker Australia

 

 で、「今回」特にひどかったのはなんで、というとこれもやっぱりって感じだけど高温と降雨量の少なさとそれに伴う乾燥が主な原因らしい。そういえばオーストラリアに来たばかりのときに研究チームの人も雨が降らなくて農家が栽培始めないから実験開始できない、と嘆いてたのを思い出す。

 

"the country's Bureau of Meteorology said in December that last spring was the driest on record. Meanwhile, a heatwave in December broke the record for highest nationwide average temperature, with some places sweltering under temperatures well above 40 degrees Celsius."

”Australia's driest year on record, with only 277.6 millimetres of rain for the country on average, 40 per cent less than the long-term average.″

 下記記事からまんま抜粋しちゃったけど、要は過去最高に高温かつ乾燥してたんですね。下記画像も記事からの抜粋(大本はBureau of Meteorology、通称BOM、まんま「ボム」)で、降雨量めっちゃ少ない、最低かよ。 

A series of up and down rainfall years but with 2019 definitely smallest

 

ただその影響が例年よりさらに大きくなったポイントとして、これまで燃えることのなかった熱帯雨林ユーカリの森、干上がった湿地帯などにも火が及んで蓄積された有機物を燃料に爆発的に拡散した、という説明もなるほどなって感じですね。

www.theguardian.com

www.abc.net.au

 

こういう気象条件がらみの災害や異常気象なんかが起きると、気候変動だ!よくもそんなことを!と連想される方も多いのではないでしょうか。ざっくり言えば、温暖化効果ガスによる気温上昇は確かに進行していて、山火事の早期化と累積の危険指数を高めていると報告されてはいるそうです。下記画像(またしてもボム)は1961-1990間の年間平均気温と比較した年間平均気温の推移ですが、やっぱり長期的に上昇してるんですね。そういう全体の傾向に加えて、極端な気象条件が当たり年における山火事を悪化させているとも...けど詳しい因果関係や定量評価は専門家でも意見が分かれる(多分、しかも政治的影響もある)ってことにして今回は逃げさせて。

graph sowing this year as the hottest of the annual mean temperatures for Australia.

www.bbc.com

www.climatecouncil.org.au

climatechange.environment.nsw.gov.au

 

一方で、下記の記事にあるように、山火事発生原因の多くは人為的要因であり人口増加が山火事の発生に強く寄与している(ゆえに単に気候要因の推移と山火事リスクの推移を結び付けて気候変動だけのせいにすることはできない)ってのはなるほどって感じです。

wattsupwiththat.com

(記事内の1974-75に1億ha, オーストラリアの国土の15%規模の山火事があったって、まじか) 

 

 

・何をしてる?何ができる?

既に甚大な被害な上に、まだ1‐2か月は高温の夏が続くという状況なので、Victoria, NSW, Queesland州では非常事態宣言です。NSWだけでも2000人以上の消防士が投入され、US, Canada, and New Zealandからの追加の消防士が参加予定、さらに陸海空軍が消火・避難・救援活動を支援するとのこと。モリソン首相は有志の消防士に最大でAUD4200を支払うとし、更に30億オーストラリアドルを復旧支援に充てると発表。
edition.cnn.com

 

ちなみに復旧活動のために追加資金投入をしたモリソンさんですが、その環境政策を批判されてたりもするそうです。日本でも政治家が災害対策を問われますが、それでも地球規模課題である気候変動への取り組みに自国民から批判されるというのは是非はともかく環境意識の高さを感じますね。まぁこれだけの実害を被っていれば批判も出るか...

www.theguardian.com

 

 そして、山火事関連でのオーストラリアへの支援の方法としては、各種団体が募金を行っている。主に(1)消火活動への支援(2)被災者への支援(3)野生動物への支援。

Australia bushfires: How to donate, support firefighters and wildlife

How to help Australia bushfire victims - CNN

 

これに関しては既に日本語で日本からの支援方法を丁寧にまとめている方々がいる。下記はほんの一部。

オーストラリア森林火災の救助・支援に日本から寄付する方法 - フロントロウ

【オーストラリア山火事2020】助けて!現状と消防士・被災者支援やコアラ募金の方法について | フォトラベラー YORI HIROKAWA

 

この記事は自分の情報整理のためのもので支援拡散のためのものじゃないけれど、オーストラリアへの愛をもって支援を呼びかける人たちがいるってのは素晴らしいことだと思う。

 

 

 

 

 

・結びのポエム、もう山火事ほぼ関係ないよ

ブログ記事として公開しておいてだけど、もしここまでたどり着いた人がいたならそれだけで自分は感動する。勝手に感謝する。

 

こ気になった観点からオーストラリアの山火事について調べて(ぐぐって)まとめてみたけど、情報ソースが曖昧だったり 引用の仕方が雑だったりと、専門家の見解に替えうるものでは到底ない。それでも最新の実態を大まかに把握するのには貢献しうるんじゃないかな。自分の研究とも関連するいくつかの視点についてはいずれ深めたい。

 

普段テレビも見ないし、ローカルな人とローカルな会話をすることもあまり多くはないので、時事問題には非常に疎い。だからこそ、今回みたいにニュース速報より一歩踏み込んだ程度でも、少し知っていれば会話を深められてそこから更に情報を得られたりもするんだろうな、なんて。

 

何より、少し能動的になれると、次から次へと興味が湧いてきて、情報を取り入れるとともに有機的なつながりが自分の中に形成されていくのが実感できる。そうやって自分で知識を組み立てると解像度を高めながら俯瞰できて、受け流してた時とは全く違う景色が見えるのは面白いね。

 

そうやって、普段から日々身の回りで起きていることに関してもう少し積極的に情報収集して自分で考察するようにしたいものだなぁ。